SUN-D Project
抗うつ薬の最適使用戦略を確立するための他施設共同無作為比較試験
うつ病は日本国民にとってその生活の質(QOL)を損なう最大の原因であり、さらに今後20年間その損失は増加傾向にあると推定されている。現在、うつ病の治療の中心は抗うつ剤、特に、SSRI、SNRI、NaSSAに代表される新規抗うつ剤である。しかし、薬物療法を開始するに当たって、①最初にどの抗うつ剤をどの量で使用し、②治療反応が不十分である場合にいつどのように治療戦略を変更するかについての十分な実践的エビデンスは得られていない。そこで、われわれは、先行するメタアナリシス研究により効果および受容性のバランスに優れた抗うつ剤(SSRI)と、非常に効果は高いが受容性がその効果ほどではないNaSSAを、どのように組み合わせると最も効果がありかつ安全で飲みやすい薬物治療指針となるかを解明するために、実践的大規模臨床試験を実施した
結果

外部機関との追加研究

SUND臨床試験データは、今後もうつ病治療の進歩のために役立つことのできる貴重なデータです。すでに研究終了から5年を経過し、すべての紙データは廃棄され、完全匿名化された電子データのみが残っていますが、この度、以下の目的で追加研究をいたします。

1. 試料・情報の利用目的・利用方法

この度、新しい解析手法を用いて、患者特性に応じた薬剤選択推奨モデルの構築を行うことを、Aifred社(Quebec, CANADA)と計画し共同研究契約を締結いたしました。Aifred社に提供するデータは、ID番号のみで管理され、個人を特定しうる情報は含まないため、全く個人が特定できない状態になっています。個人情報とID番号を結びつける対応表は存在しません。研究成果を公表する際にも、個人が特定されることは一切ありません。 データ移管に関しては、厳密にアクセス権が管理されたファイル共有クラウドサービスを用います。今回、京都大学とAifredの研究者のみがアクセス可能な環境で、京都大学からAifred社にデータの提供を行う予定です。

2. 利用または提供する試料・情報の項目

- SUND臨床試験中に、調査票および電話面接によって取得したデータ

これらのデータは、これまでの解析でも用いられたものです。今回、新たなデータを追加して提供するわけではありません。

3. 当該研究を実施する全ての共同研究機関の名称および研究責任者の職名・氏名

データ収集責任者: 京都大学大学院医学研究科 健康増進・行動学分野 古川 壽亮

解析責任者: Aifred社 David Benrimoh

4. 試料・情報の管理について責任を有する者の氏名または名称

京都大学大学院医学研究科 健康増進・行動学分野 古川 壽亮

5. 研究対象者またはその代理人の求めに応じて、研究対象者が識別される試料・情報の利用または他の研究機関への提供を停止すること

Aifred社へのデータの提供を拒否される際には、下記の相談窓口までご連絡ください。拒否された場合は、データの提供は行いません。また、拒否されたことにより不利益を被ることは一切ありません。

6. 研究対象者およびその関係者からの求めや相談等への対応方法

研究課題ごとの相談窓口 研究室・担当者・連絡方法を併記 京都大学大学院医学研究科 健康増進・行動学分野 古川 壽亮 (Tel)075-753-9491

サマリー

2010年12月から2015年3月にかけて、日本全国48医療機関にて合計2011人の未治療うつ病エピソードの患者さんにご参加をいただいた(平均年齢43歳、女性54%)。

ファーストライン治療では、970人がセルトラリン50mg群に、1041人がセルトラリン100 mg群に割り付けられた。治療開始から9週間後、両群の抑うつ重症度、副作用の重症度に有意差はなかった。25週後、両群間に効果、副作用の差はなかった。

ファーストライン治療で3週間後では寛解に至らなかった1646人のうち、551人はセルトラリン継続に、537人がセルトラリンとミルタザピン併用に、558人がミルタザピンへの変薬に割り付けられた。治療開始から9週間後のPHQ9スコアで、併用群は0.99点、変薬群は1.01点、継続群よりも低くなっていた(それぞれp=0.0012)。併用群と変薬群の間には差がなかった。反応率は継続群、併用群、変薬群で約43%、52%、50%であった。寛解率は25%、36%、32%であった。副作用の重症度に3群間の差はなかった。25週間後、3群間に効果、副作用の差はなくなった。

?新たに発症したうつ病エピソードに対して、初期治療薬としてセルトラリンの投与量のターゲットを100 mgとすることは、50 mgとすることに比して、何の利点もない。3週間後に寛解に達しない場合は、ミルタザピンに変薬、またはセルトラリンにミルタザピンを併用することで、9週間後の反応率も寛解率も約10%上昇することが期待される。

本研究は、抗うつ剤の臨床試験としては世界で3番目の規模をほこり、今まで様々な意見があったファーストラインの抗うつ剤のターゲット投与量、そしてファーストラインで反応が不十分な場合のセカンドライン治療についていつ何をするかについて、新しい知見をもたらした。

(詳細は下記第4論文、Kato et al (2018) BMC Medicineをご参照下さい。。オープンアクセスです)

論文

  1. Furukawa TA, Akechi T, Shimodera S, Yamada M, Miki K, Watanabe N, Inagaki M & Yonemoto N (2011) Strategic Use of New generation antidepressants for Depression: SUN(^_^)D study protocol. Trials, 12, 116.
  2. Shimodera S, Kato T, Sato H, Miki K, Shinagawa Y, Kondo M, Fujita H, Morokuma I, Ikeda Y, Akechi T, Watanabe N, Yamada M, Inagaki M, Yonemoto N & Furukawa TA (2012) The first 100 patients in the SUN(^_^)D trial (strategic use of new generation antidepressants for depression): examination of feasibility and adherence during the pilot phase. Trials, 13, 80.
  3. Yonemoto N, Tanaka S, Furukawa TA, Kato T, Mantani A, Ogawa Y, Tajika A, Takeshima N, Hayasaka Y, Shinohara A, Miki K, Inagaki M, Shimodera S, Akechi T, Yamada M, Watanabe N & Guyatt GH (2015) Strategic Use of New generation antidepressants for Depression: SUN(^_^)D protocol update and statistical analysis plan. Trials, 16, 459.
  4. Kato T, Furukawa TA, Mantani A, Kurata K, Kubouchi H, Hirota S, Sato H, Sugishita K, Chino B, Itoh K, Ikeda Y, Shinagawa Y, Kondo M, Okamoto Y, Fujita H, Suga M, Yasumoto S, Tsujino N, Inoue T, Fujise N, Akechi T, Yamada M, Shimodera S, Watanabe N, Inagaki M, Miki K, Ogawa Y, Takeshima N, Hayasaka Y, Tajika A, Shinohara K, Yonemoto N, Tanaka S, Zhou Q, Guyatt GH & Investigators S (2018) Optimising first- and second-line treatment strategies for untreated major depressive disorder - the SUND study: a pragmatic, multi-centre, assessor-blinded randomised controlled trial. BMC Medicine, 16, 103.
  5. Furukawa TA, Kato T, Akechi T, Shimodera S, Okada N, Yanai I, Ozaki K & Kinou K (in press) Dropouts in an antidepressant trial: how do they fare afterwards? Psychotherapy and Psychosomatics.
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